MTAによる神経保存治療について 〜白い詰め物の下に潜む虫歯のリスク〜
日々の診療の中で、患者様から「保険で白い詰め物を入れたのに、なぜまた虫歯になってしまったのですか?」というご質問をいただくことがあります。
見た目には問題なさそうに見える白い詰め物でも、実はその下では虫歯が進行しているというケースは決して少なくありません。今回は、そうした「見えない虫歯」の実態と、歯の神経を守る最新の治療法である「MTAによる神経保存」についてお話ししたいと思います。
保険の白い詰め物の問題点
保険診療で使われる白い詰め物(コンポジットレジン)は、保険適用内で手軽に使用でき、短時間で治療が終わることから、非常に多くの現場で使われています。しかし、その一方でいくつかの注意点もあります。
まず、保険診療の制約上、使用できる材料や治療時間に限りがあるため、虫歯の除去や詰め物の接着において「完璧」を求めるのが難しい現実があります。
特に奥歯の複雑な形状や深い虫歯に対しては、虫歯を完全に取りきれなかったり、詰め物と歯の間に微小なすき間ができてしまったりすることがあります。
こうした小さなすき間から細菌が入り込み、気づかないうちに虫歯が進行してしまうことがあります。詰め物の表面が問題なさそうでも、その下では虫歯が広がっており、痛みが出てきた頃にはすでに神経にまで達してしまっているケースもあります。
神経が露出するほどの虫歯
虫歯が深く進行すると、歯の中の神経(歯髄)にまで達してしまうことがあります。通常であればこのような状態になると「抜髄(神経を取る治療)」が必要となります。
しかし、神経を取ってしまうと、歯への血流が断たれてしまい、歯が脆くなるリスクが高まります。また、神経を取った歯は長期的に見て寿命が短くなりやすく、将来的には抜歯になる可能性も否定できません。
歯の寿命を延ばすためには、できるだけ神経を保存することが理想です。そこで注目されているのが、**MTA(Mineral Trioxide Aggregate)という特別な材料を用いた「神経保存治療」**です。
MTAによる神経保存とは?
MTAは、1990年代に開発された歯科用のバイオセラミック素材で、神経に直接触れる部分に使用しても安全性が高く、殺菌性や封鎖性にも優れています。
従来であれば抜髄の対象となっていたような深い虫歯のケースでも、MTAを使用することで神経を残す治療が可能になるのです。
今回のケースでも、虫歯が神経の直前、あるいは一部露出するほどまで進行していました。従来の保険診療では抜髄が選択されることが多いですが、患者様の歯の寿命を第一に考え、MTAによる神経保存を行いました。
MTA治療のメリット
- 神経を残せる可能性が高まる
⇒ 神経が生きている歯は、外部からの刺激に反応し、自らの力で再石灰化(自然治癒)しようとする力があります。 - 歯の寿命が延びる
⇒ 神経を取ると歯は徐々に弱くなり、将来的に折れたり、再治療の必要性が出てきます。神経を守ることで歯を長持ちさせられます。 - 殺菌性・封鎖性が高い
⇒ 細菌の侵入を防ぎ、再発リスクを下げることができます。
ただし、すべてのケースで神経保存ができるわけではありません
MTAは非常に優れた材料ではありますが、すべてのケースで神経を残せるとは限りません。すでに神経が大きく壊死していたり、強い炎症が起きている場合は、やはり抜髄が必要になります。
また、MTAは保険適用外の材料であり、自由診療として行う必要があります。費用や治療時間については、事前にカウンセリングでしっかりご説明いたします。
最後に 〜定期的なチェックの大切さ〜
今回のように、詰め物の下で虫歯が進行していても、初期段階では痛みがないため、患者様ご自身では気づきにくいことが多いです。そのため、定期的な検診とレントゲンによるチェックが非常に重要になります。
白い詰め物が入っているから安心、ではなく、その詰め物が「きちんと密閉されているか」「内部で虫歯が進行していないか」を確認することが、歯を長く守るための第一歩です。
そして、万が一深い虫歯が見つかった場合でも、神経を残す選択肢があることを知っていただけたら幸いです。私たちは、患者様の大切な歯を少しでも長く健康に保てるよう、最善の治療をご提案してまいります。